これから数回に分けて、私が好きなギタリストについて書いていこうと思います。
影響を受けたギタリストとしてまず初めに思い浮かぶのが、アメリカ出身のジャズギタリストKurt Rosenwinkelです。
長い間ジャズに触れてきた中で、カートは常に聴いていたギタリストの一人です。
今ジャズを演奏しているギタリストは皆、カートから何かしらの影響を受けているのではないでしょうか。
彼は近年のコンテンポラリージャズの流れを作ったと言っても過言ではないほどの、現代のジャズシーンにおける最重要人物です。
カートによってコンテンポラリージャズには大きな変化がもたらされ、その形が確立されました。幅広い時代性、多様性を持ったコンテンポラリージャズにおいて、カートの登場は大きな分岐点となったと言えるでしょう。
その後はカートを始め同世代のMark Turnerなどによってコンテンポラリージャズの様式はさらに発展していき、現在は彼らの次の世代であるMike Morenoなどがそのシーンを牽引しています。
カートも従来までの、例えばのPat Methenyような他ジャンルの手法を取り入れていくコンテンポラリージャズの流れを汲んでいますが、彼の独自性は他ジャンルからの影響を「正統なジャズの文脈で完全に消化した」という点にあると思います。
ジャズにブラジル音楽や前衛的な電子音楽、ヒップホップなど他ジャンルの技法を持ち込んで、その音楽性を単に拡張するだけではなく、彼はそれらの技法をジャズの文脈の中へと消化しました。ジャズと他ジャンルとの「融合」やフュージョンとは一線を画したものとであると言えるでしょう。
彼のプレイからはThelonious Monkなどバップ期の音楽を非常に丁寧に、深く掘り下げたことが感じられます。
カートの演奏には常に中心にバップがあり、そこへ他ジャンルの手法を持ち込んで真新しい響きを持たせているのです。つまり「どう聴いてもジャズなのに明らかに異質な響きを持っている」という、本当の意味でコンテンポラリージャズの刷新を行ったギタリストだと思います。
彼の作品にはどれも斬新なアプローチがあって素晴らしいのですが、特にライブ録音の”Remedy”は前述したようなカートらしさが感じられ、抜群に良いです。
このアルバムは学生時代に熱心に聴き、一時は彼が愛用するギターD’Angelicoを使ってました。
また、カートといえばギターシンセの特殊な音色や、個性的なトーンを持った自作曲が有名ですが、私は数ある楽曲の中でも特にスタンダードのソロギターが好きです。
彼はスタンダードを演奏するとき、原曲のエッセンスを完璧に押さえながらも、非常に洗練されたラインやボイシングを持った現代的なサウンドに仕上がっています。
カートの現代的なアプローチが、スタンダード曲の持つ伝統性との対比の中でより際立っていると感じられると思います。
サウンドや現代的なアプローチなど、一聴して分かるオリジナリティは、その後の世代であるMike Moreno、Gilad Hekselmanなどに強い影響を与えています。
また彼はアルバムを出す毎に、一貫した音楽性をさらに掘り下げつつも、毎回アルバムへのアプローチを大胆に変えることでも知られています。
先日リリースされた最新作”Plays Piano”は全編を通してピアノアルバムとなっています。カートのピアノの演奏技術は非常に高く、ギターとピアノのどちらのプロミュージシャンになるか迷ったほどだそうです。
今度はどんな新鮮な響きを発見できるのか、聴くのがとても楽しみです。